きっと、忘れない。
アントレで戦う最後の一日が始まった。
全員の思いはきっとひとつだった。
しかし、朝から数字がまったく動かない。
最後一日でクロージングできる数字があるとしたら。
それを前夜に考え抜き、全員が朝からそのために動きまわる。
一度は断られた。でも、再度ニーズを掘り起こし、提案に向かう。
まだ会ったことさえない。でもきっとニーズがあるはずだ、そこに飛び込む。
すでに掲載予定のあるクライアントへ、追加提案を案内する。
そこにいる全員が、考えられるすべての選択肢を挙げ、ただ実行する。
2か月前の組織からは考えられないほど、
一丸となってゴールを追いかけた。
でも、数字は動かない。
それもそのはず。
この2か月、
絞り切ったぞうきんをさらに絞って、
できる限りのことをやりきって、
不可能をいくつも可能にして、
そうやって、
ここまできたんだ。
もう、誰の手にも、何も残っちゃいなかった。
9時から営業を始め、
10時、
11時、
12時、
しかし数字が動かない。
13時、
14時、
ホイッスルまで残り4時間を切ったとき、
それでも数字は動かなくて、
天を仰いで、
14時32分、
その時、僕は西日本に異動した先輩と、
昔、難易度の高さに暗礁に乗り上げたクライアントへ、
最後にもう一度何か提案できる余地はないかを、
電話していて、
二人ともあせって声を荒げて電話をしていて、
14時33分、
後ろのほうでフロアが湧いた。
すぐに電話を切って駆け付けると、
入社半年の新人が掲げた申込書。
昨日初めて商談に行った、
新規クライアントからの、
渾身の連号受注。
数字は、
99%
その瞬間、
あふれ出したアドレナリンが、
フロアを包んだ。
あと1%
あと1%
なにが、
なにができる。
なにができる。
なにができる。
異様な光景だった。
その申込書が掲げられた直後から、
静まり返った営業フロア。
全員が、
あと1%
なにができる
自分と向き合い
静まり返った。
14時50分、
15時00分、
まったく状況は動かない。
そして、
なぜ、そこに電話をかけたんだろうか。
自分でも不思議なくらい、
無意識に、
僕は携帯電話を手に取り、
ダイヤル発信をした。
埼玉県にある、子供服リサイクルショップFCの会社。
担当してちょうど1年。
担当直後に編集部と大トラブルが起こって、
GM、編集長をつれて謝罪に同行。
それでも社長の怒りが収まらず、
もう二度と付き合うものかと、
叱責を受けた僕と社長の関係の始まり。
それから、何度も足を運び、
事業拡大への思いを共有し、
もう一度だけ、とチャンスをもらったフェアへの出展で成功をおさめ、
ひるむ社長の肩を叩いて、
大阪地区への進出を決断。
1年かけて加盟店を大きく伸ばしたそのチェーンが、
僕は心から好きで、
社長にはいつも「次はない」と脅され、
時に見捨てられそうになり、
怒られながら、
今日まで。
実は、次回のフェアへの出展を断られていた。
東京地区での店舗がついに飽和状態になった。
これ以上応募者が必要なくなった。
アントレのフェアに出なくてもよくなる。
イコール、FCチェーンにとっては、
東京地区での「アントレ卒業」を意味する。
すごく、めでたい非出展理由。
提案は、当然大阪に重心を置くことになる。
これから本格化する大阪地区での店舗展開について、
戦略と思いを語り、
次回は、大阪フェアへの出展を約束してくれていた社長。
その社長に、
なぜその社長だったんだろうか、
もっと仲の良い会社なんていくらでもあったのに、
今でも不思議で仕方ないんだけれど、
その時、
無意識に、
その社長に電話をかけていた。
そんな電話をかけたのは、初めてだった。
顧客に対して、「価値ある提案」を行ってこその営業である。
そう、スタンスをもって営業していたのに。
電話に出てくれた社長に対して、
東京フェアに、出展をお願いできませんか。
と、お願いをした。
もう、東京地区での加盟店獲得の必要がないこと。
今後のチェーンとしての方向性、
イベント当日に新店オープン直前が重なっていること。
全部を承知の上で、
それでも、東京フェアに出店をしていただけませんか。
そうお願いをした。
社長もビックリしたんだろう。
言葉に詰まられた。
そして僕は、
今日がアントレで働く最後の一日であること、
アントレの事業が掲げた経営計画に対して、
あとちょっとであること、
時間がない中で、
もう何もできることがなくて、
本当に自分勝手なお願いで、
でも、
こんなことを頼める社長はほかにいなくて、
本当に、
自分都合の営業電話で申し訳ありません。
そう、伝えた。
やや沈黙があった後、
そうか、
麻生さんは今日で最後か、
わかった、
いいよ。
卒業おめでとう。
ホイッスルの2時間30分前。
東京フェアの受注が確定。
瞬間、声にならない涙が、あふれ出た。
電話を切って、
顔をあげると、
まわりが泣いていて、
でも、まだ足りない。
99.6%
それから、数字が動き始める。
同じような、
小さな受注が、
いくつか動きはじめて、
99.6%
99.6%
99.8%
99.9%
僕は、直前のその電話の感動が止まらなくて、
受注処理に時間がかかってしまって、
時間は、
17時30分。
受注処理を終えて、
もう、
ほんとに、
あとちょっとなんだ。
まだ、できることはあるか。
もう、
たとえ無理だったとしても、
最後まで戦い抜いてみせる。
そして、
最後に、
2年間付き合った中で、
一番かわいがってもらった会社に、
電話をかけた。
17時45分。
僕はその会社と、
思い出話とか、
今月に予算を回してもらえる方法はないかとか、
思い出話とか、
今月に予算を回してもらえる方法はないかとか、
すこし長い電話をしていて、
17時55分
少し離れて電話をしていた僕の、
後ろのほうで、
歓声が上がった。
ああ、
よかった。
2008年、3月28日、17時55分。
48期初めての、
アントレユニット、
四半期経営計画、
達成。
僕の電話は、18時を少し回って終わり、
やはり
卒業おめでとう
の言葉と一緒に、
アントレ本誌の広告掲載を決断してもらった。
それが、僕のアントレでの最後の受注となった。
電話が終わって、
みんなのところに戻って、
飛びつかれて、
やった!
と言葉を聞いた時、
腰を抜かしてしまった。
そうか、
やっぱり、
奇跡ってやつは、
起こせるんだよな。
それから、
一緒に戦ったすべての仲間と、
お世話になった関係と、
先輩と、
上司と、
お客様に、
心からの感謝の気持ちを、
述べて回った。
そんな、アントレ最後の一日。
それから1か月。
すべての引き継ぎを終了し、
新天地、メディアテクノロジーラボで、
新事業の立ち上げに奮闘する毎日を送っている。
4月の中旬に招かれた、
アントレの新しい1年の門出を祝す「キックオフ」で、
48期第4四半期
「最優秀営業マン賞」として表彰を受けた。
去る身だからいいよ、と言ったのに、
ぜひ、最後にコメントを言ってほしいんです
と用意された、会の締めくくりの挨拶。
そこで、
新しくこの1年を戦う新生アントレユニットのメンバーを前に、
僕はこの2年間の想いを、
簡単に述べた。
アントレのことが、
すごく好きだったんだなぁと、
心から思う。
思い返す辛いことは果てしなくあって、
日々の数字へのプレッシャーはハンパないし、
提案なんてなかなか通らないし、
そんな中で日に日に厳しくなっていくマーケット環境が、
苦しくて、苦しくて、
でも、
それでも僕は、
働けば働くほど、
アントレの読者が好きで、
アントレのクライアントが好きで、
アントレで働く人たちが好きだった。
今だから笑ってよく話す話だけれど、
僕の社会人生活は、
わけもわからずかけさせられたアポ取り電話、
それを隣で聞いていた先輩の、
お前のしゃべり方がムカつくから、死ね。
の言葉で始まった。
アポに行けば行ったで、
実は世の中に「アントレの出稿ニーズ」なんてほとんどないわけで、
そんな中で、
一社、一社、
すべての経営者と、
どうやったら御社の事業は拡大できるんでしょうか
と、売り上げ拡大の話をし、
初めて聞いたような商材の販路を考え、
マーケット分析をし、
チャネル展開を提案し、
それでも広告掲載はほど遠い話で、
今思えば、その分析や提案もいかに未熟だったかとは思うものの、
ひたすら社長に会い続けて、
経営の話を聞かせてもらった2年間だった。
いつの日も、胸に刻んで戦ってきた言葉がある。
かつてドリームゲートを立ち上げた伝説のアントレマン、松谷卓也氏の言葉。
アントレを担う我々自身が、アントレプレナーでなくてはならない。
人生を賭けて応募をするアントレ読者と、
社運をかけて広告掲載をするクライアントの間に立つ僕ら自身が、
いかにアントレプレナーであれるか。
そんな中で出会ったすべての読者とクライアント社長は、
本当に、
腹をくくった生き方をしていて、
サラリーマンである僕には絶対に持ちえない輝きに、
憧れを覚えた。
本当に、アントレのことが好きだったんだなぁと思う。
それは、関わる全ての人たちが腹をくくった生き方をしていたからで、
その、
アントレプレナーとアントレプレナーをつなぐアントレこそ、
何より腹をくくったアントレプレナーの集団であってほしい。
そう、伝えた言葉の最後を以て、
僕のアントレでの生活は幕を下ろした。
これからの数年間、
僕が歩む道のりは、
サラリーマンでありながら、
自分で決断して進まなければ何も生まれない、
社内起業家
としてのキャリアになる。
アントレ出身のイントレプレナーとして。
さすが、といわれるような、
腹をくくった事業展開を描きたい。
僕があこがれるアントレで出会ったすべての起業家が持っていた、
人生を賭け、
社運を賭け、
その足で立った時に生まれるキラキラとしたオーラを、
少しでもまとえるように、
この足で、歩んでいきたい。
卒業して思うのは、
アントレがいかに好きだったかという想いと、
関わったすべての人に対する、
ただ、
感謝の気持ち。
僕を育ててくれた、
すべてのアントレプレナーのみなさんに、
こころからの感謝を伝えたい。
いつかまた、
一緒に仕事ができるように、
そのときに、
恥じることのないくらいに
腹をくくって立っていられるように、
やるぞ。
2年間「mozkishAntenna R」にお付き合いくださったみなさま。
なんとも、毎度よくわからない胸の内を吐露するだけのこのブログにお付き合いくださいまして、
本当にありがとうございました。
僕の大好きなみなさんが、
日々頑張って働いていて、成長して、進化していく様子に、
どれほど刺激を受けて、
日々の仕事の力に代えさせていただいていたか。
本当に、本当に、感謝の気持ちでいっぱいです。
「mozkishAntenna R」は、この投稿をもって更新を終了しようと思っています。
2年間のアントレ生活で培ったすべての力で、
新天地メディアテクノロジーラボにて、
事業開発の仕事をしていきます。
腹をくくり、
自分の足で立つ。
そんなイントレプレナーを目指して、
このブログも、名を「mozkishAntenna」に戻し、
新しい形態で発信をしていきたいと思っています。
実は、3月末より投稿を始めている
mozkishAntenna
にて、今後ともお付き合いいただければと思います。
それでは。
本当に、
本当に、
心から、
ありがとうございました!
ようちん